【212】よきライバル

※文中の敬称を省略します。

 羽生結弦(以下ゆづくん)が競技会に出ないそうですね。筆者はユヅリスト(羽生結弦の熱狂的なファン)ではありませんが、ゆづくんのシニアデビュー当時から見てきたので、今後の挑戦を楽しみに見守りたいと思います。ゆづくんのすごさは五輪2連覇やクワッドアクセルへの挑戦など語り尽くせませんが、筆者が最も驚くのは音楽との一体性です。ゆづくんの演技は音楽の一音一音に対応するような手足・身体の動きが他の選手の追随を許さない領域にあります。
 でも、ゆづくんを世界のトップ選手にしたのは、本人の努力やコーチの指導、スタッフの働きはもちろんですが、ライバルの存在が大きいように思います。2014年のソチ五輪で金メダルを争ったカナダのパトリック・チャンはゆづくんの4歳年上ですが、そのスケーティング技術と表現力は世界最高レベルにありました。ゆづくんはパトリック・チャンに追いつこうと必死だったはずです。

 2018年の平昌五輪で男子シングルを連覇した時にフリー1位だったのが米国のネイサン・チェンです。ゆづくんよりも5歳若いチェンは平昌以降に出場したすべての競技会で優勝するという圧倒的な強さでゆづくんの最大のライバルとなりました。しかし、5種類の4回転ジャンプを完璧に飛べる選手はチェン以外にはなく、技術的にはゆづくんを凌駕しています。五輪連覇で目標を失いかけたゆづくんが現役を続けて2022年の北京五輪をめざしたのはチェンの存在が大きかったのではないでしょうか。

 ゆづくんの「引退」会見から6日後、パトリック・チャンと同い年のキム・ヨナが結婚を発表しました。韓国のスーパースターで、国民的な人気を誇るキム・ヨナは技術と芸術の融合というフィギュアスケートの魅力を高めたスケーターでした。同い年の浅田真央(以下まおちゃん)と競技の上で最大のライバル関係でした。ゆづくんほど多弁でない二人はあまり直接的に口にすることはありませんでしたが、お互いの存在が自分を高めていることを間違いなく理解していました。

 ジュニア時代にはたった一度しかまおちゃんに勝てなかったキム・ヨナは高い集中力と演技の安定性で2010年のバンクーバー五輪で金メダル、14年のソチ五輪で銀メダルを獲得しますが、まおちゃんは五輪の金メダルには手が届きませんでした。

 ソチ五輪での演技後、ヨナがまおちゃんに日本語で「お疲れさま」と声をかけたことはよく知られています。ヨナは記者会見で、「私たちほど常に比較され、試合をしてきた選手はいないと思う。お互いに立場を理解でき、彼女の涙を見たときは私もこみあげてくるものがあった」と語っていたことを思い出しました。

 コロナ禍で内向きの日々、お互いを高め合うようなライバル関係はとても気持ちよいものですね。

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