極論ではあるが、旅の楽しみは見る・食べる・買うに集約されるのではないかと思う。とりわけ 女性にとって買うことは旅の中でも大きな位置をしめていると思う。
私もその例外ではない。また どうも人に左右されやすい性格らしく、その時のお客様の買い物にあわせて、つい 買い物をしてしまう。書道家なら筆や硯を、料理研究家なら調味料や食材をというような具合だ。その結果 我が家は物産展のようになり家族のひんしゅくをかっている。
その中でも忘れられない買い物がある。
いまから 20年ほど前のこと、お客様といった上海の文物商店(いわゆる骨董品店)のかたすみに小さな珊瑚の珠を見つけた。直径2センチぐらいのものでまわりに花の模様の彫刻がしてあった。聞くと清朝時代のもので髪飾りの一部分だったとか。値段をきいてみると当時の日本円で3万円ぐらいの値段をいわれた。当時の私の給料は十数万円だった。とても買えるものではない。心に残りながらもあきらめることにした。
それから 半年 また その店に行く機会があった。ふと あの珊瑚の珠を思い出し、なにげなく探していると、かたすみにほこりだらけでおかれていた。その時はおおいに迷った。
しかし 私の給料では・・・と思いながら、その場を立ち去ったのだった。
そして 一年後、またまた その店に行く事になった。(当時は今のようにお店も多くなく、ショッピングというとどうしてもその店にいくことになってしまう。)お店の中の位置も変わり、誰かが買っただろうとさがしていると棚のかたすみに忘れられたようにおかれていた。もうこのときは迷わなかった。まるで古い友達に出会えたような そんな気にさえなったのだから不思議なものだと思う。
買った後は、時間があればだしてながめていた。清朝のどんな女性がこれをつけていたかとおもうだけでも楽しかった。しかし、それだけはもったいないのではないかと思い、北京の宝飾店で真珠と組み合わせネックレスを作った。
そのネックレスをつけるたびに、あの頃の自分の事を思い出す。店内の様子からその時のお天気そして迷った自分の気持ちまではっきりと浮かんでくる。私の忘れられない買い物だ。
やっぱり 買い物は楽しい・・・・・・。