世界遺産に登録され、注目が集まっている富士山。登ってみたいけれど、山頂までの富士登山は難しい方におすすめなのが『お中道巡り』です。
お中道は、かつて富士山に3回以上登頂した者のみ歩くことが許された信仰の道で、富士山の中腹を一周するものでした。現在歩くことが出来るのは、スバルライン五合目、または奥庭駐車場から大沢崩れまでの往復約8km、ほとんどアップダウンがなく道も比較的整備されているため、幅広い年齢層の方が楽しめるコースとなっています。学生の頃歩いたこのお中道トレッキングに、昨年秋、再チャレンジしてまいりました。
森林の限界域を行くお中道は、大部分をシラビソなどの針葉樹の林の中を歩きます。厳しい環境から変形した樹形の木々や雪崩による倒木、野生動物が雨宿りするような窪みに、木々の根元を覆う苔の間からは、若木が競い合うように芽吹き、幻想的な自然を味わうことが出来ます。その中でも樹皮がめくれあがっているシラカバに似た樹木『ダケカンバ』は、高度と強風から背丈が低く風下へ変形しながら伸び、その独特な景観は印象的です。ひらひらとめくれ剥がれやすい樹皮には油分が多く、焚き付けにも使えるといいます。
視界が開けたところからは、いくつかの砂礫の沢を渡ります。多孔質な溶岩の砂礫と、見上げても見下ろしても滑らかな山肌は、成層火山特有の円錐状の美しい形を感じることが出来ます。訪れた日は天気が良く、山頂まで見通すことができました。
木や金属の梯子、橋、一部鎖などが設置された人一人がやっと歩けるような場所があり、倒木を避け木の根を痛めないよう気遣いながら歩みを進め、山頂までの登山に比べれば・・・と思いつつもそろそろ疲れが出てきたところで、大沢崩れに到着します。
深い沢を見下ろすと、吸い込まれそうになり、見上げると、落岩を示す砂埃が見え、じっと耳をすませば、石が転がり落ちる音が聞こえ、今でも山体が崩れ落ちていることを実感します。大沢崩れでは、年平均約16万m3(10t積みダンプ32,000台分)の土砂が崩壊しているそうです。
富士山を訪れ、ほんの一部を歩いてみて感じたのは、厳しい自然の中、安全に、また環境を壊さないように歩ける道は限られているということです。
富士山の自然を守りながら体験する、自然保護の気持ちを忘れてはいけないと改めて思いました。