気づいたら二時代も経ていたことにびっくりですが、インドネシアとのつきあいももう20年になります。ホームステイなどを繰り返し彼の地に根付きはじめたころ、スーパーや売店に一緒に買い物にいく友達がパッケージをひっくりかえしたりして必ず見ていたあの不思議なマーク。「それ何?」と訊く私に友達は「イスラム教徒のためのJISマークだよ」と明解に答えてくれました。
イスラム教徒のためのJISマーク。正式名称を「ハラル認証マーク」といいますが、みなさんもテレビや新聞で耳にされたことがあるのではないでしょうか。
ハラルマークとは、禁忌の多いイスラム教徒が安心して使える品物ですよ。イスラムの教えに背く豚肉やエキス、アルコールなどは入っていませんよ。と公的な認証機関が審査し認定した商品に与えられるマークです。買い物をするイスラム教徒は、パッケージにこのマークが付いていれば成分を細かくチェックしなくても安心して買い物をすることができるのです。日本の商品に当てはめるとアレルギー成分表示のようなイメージです。
2013年時点で世界のイスラム人口は28億人といわれています。ちなみに、インドネシアは世界でいちばんイスラム教徒が多い国ですが、そのインドネシアや2億5千万人の回教徒を抱えるインド、1億3千万人超を抱える中国、富裕層が多く外国旅行がさかんなマレーシアから日本への観光客が増えているいま、またアラブ諸国からの観光客も視野に入れ、受け入れる側もハラルに対応したもてなしを考えていかないといけないときがきているのでしょう。
20年間ハラルを知っているつもりだった私ですが、ハラルとは食品分野にのみ適用される認証制度だと勘違いしていたことを、先日マレーシアのハラル公社を視察訪問した際に初めて知りました。
対象になる分野は食品のほかに、化粧品・シャンプーなどの日用品、医療、さらには流通(ハラル製品を運ぶ車両やコンテナ等に対して)、金融(金銭のやりとりの過程で利益を得てはいけない)など多岐にわたるのです。一朝一夕にはとうてい覚えきれないし実践しきれませんが、面倒くさがらずにひとつひとつ教義に触れないようにクリアしていけば、いつのまにかイスラム教徒が安心して暮らせる環境ができあがっているのですね。
先ごろ日本通運は、アセアン時代を見越してインドシナ半島を縦横する流通網を自在に商売するため流通分野のハラル認証を得ました。世界一審査が厳しくて信頼の厚いマレーシアの認証機関には連日、イスラムマーケットで成功しようとする世界中の企業から審査依頼があるそうです。先日は韓国のキムチメーカーが認証を得、「ハラルキムチ」なる商品が誕生したとか。そのキムチは、教義のハンデがあるイスラム教徒はもとより、なんの規制もない他教徒だっておいしく食することができるのですから、「認証とっておいてなにも損はない」わけです。
ここ数年、イスラム圏からの日本旅行観光客は、東京や京都、大阪といったゴールデンルートと並び、ハラル対応が進んでいる北海道や福岡へ足が延びているそうです。
ハラルは宗教的な偏見とはまったく異なる(誤解を恐れず言ってみれば)バリアフリーの一環です。めんどうくさがらずに対応完備した者が勝負の鍵を手にすると思っていいのかもしれません。