【219】湯河原の2.26事件

 先日、久しぶりに湯河原温泉の旅館に投宿した。明治創業の老舗らしく古風だが、源泉が熱すぎて加水しているという風呂にも満足した。
 ちょうど2月26日で、散歩に出たところで二・二六事件の史跡に出くわした。1936年2月26日に東京で決起した陸軍の青年将校らによるクーデター未遂事件はよく知られている。その二・二六事件で、東京以外の唯一の現場が湯河原にあったことを知った。
 大久保利通の次男で、事件当時75歳の伯爵だった牧野伸顕は老舗旅館・伊東屋の別館「光風荘」に滞在していた。前内大臣として天皇側近にあり、欧米協調派とみなされて、「君側の奸(くんそくのかん)を取り除く」として襲撃対象になったのだ。
 河野航空大尉以下8名は東京の決起部隊と時間を示し合わせて午前5時、光風荘を急襲。「電報!電報!」の声に警護に当たっていた皆川巡査が戸口を少し開けた。異様な訪問者の姿を見て2、3歩後ろにひるむと、河野大尉らがなだれ込んできた。「牧野はどこだ!案内しろ!」。皆川巡査は牧野が寝ている反対方向に折れ、少しでも離そうとする。そして振り向き様に銃弾を放ったが、ほぼ同時に河野大尉も応酬。その間に牧野はお付の女中の機転で女物の着物をかぶり勝手口から脱出、塀を乗り越えて裏山に逃れたという。(※襲撃事件の詳細は湯河原デジタル博物館のサイトより抜粋)
 東京からも近く、傷を癒す湯ということで、湯河原温泉は日清・日露戦争の傷病兵の療養地とされたこともあり、軍人との接点が多かった。東郷平八郎や乃木希典にゆかりの旅館もある。事件から87年を経て、再び日本の軍備拡大が進められようとしている。軍人が跋扈する世ではなく、観光客や湯治客がのんびりする平和な世でこそ旅行を楽しめるのだと、早春の名湯につかりながら思った。

事件現場の碑
老舗旅館・藤田屋

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