我が愛犬チワワどのは、その名を「ナンディニ」という。公園に集う飼主仲間からは よく「ダンディちゃん?女の子なのに勇ましいお名前ねぇ~」と間違われる。確かにあまり耳慣れない響きだが、「ナンディニ」これはヒンズー教の神のひとりシヴァに由来してつけた名前である。
ヒンズー教には主に3人の神がいる。万物の創造を司る神ブラフマー、その保持を司る神ヴィシュヌ、そして破壊を司る神シヴァ。 その3人にはそれぞれ「個人の乗り物」なる便利なお供がついている。ブラフマーにはハンサという白鳥に似た鳥。ヴィシュヌにはガルーダという神の鷹。シヴァにはナンディニという白い牛―
愛犬ナンディニは、活発かつ機敏な動きが身上のチワワにはおよそあるまじく 日々をのんびりおっとり優雅に暮らしている。その様はまるでシヴァから借りてきた白牛が具現化してそこにいるのでは?と真剣に疑いたくなるほどのウシぶりである。
さて世間話は置いておくとして、この「乗り物」たち バリ島のおとなりジャワで会うことができる。中部ジャワにある世界遺産「ボロブドゥール」とセットで観光することの多い「プランバナン」という8世紀建立のヒンズー教寺院に、それぞれの祠を設け 安置されているのだ。
境内にはそのメイン塔(シヴァ神が祀られている)を含め長短6基の尖塔が空に向かい当時の隆盛を誇っており、その シヴァ塔の向いの短い祠に、くだんの愛牛ナンディニが待機しているのである。石で丁寧に作られた忠牛(?)ナンディニは、およそ1000年を超える月日のなかで参詣者や観光客から慈しまれナデマワサレて、今では背と額がぴかぴかのつるつるになってしまった。私の記憶ではナンディニは牝牛だったはず。女の子なのに歳とって頭がつるつる は同情するところだが、愛らしさは1000年の時を経ても変わっていない。
実はこのプランバナン寺院、日本での知名度はまだ低いがこちらも世界遺産に登録されている立派な史跡である。両寺院を訪れたことのある方々に尋ねると、約半数が「プランバナンの方が好き」と答える。横広がりお椀型で安定感のあるボロブドゥールに対し、48mもの塔長を誇るこちらは実に男性的で美しいのだ。
私はお客様をここへお連れすると、神々よりも乗り物たちの祠の説明につい力を入れてしまう。なぜだろう。日本で留守番しているウシにとりつかれたイヌ「ナンディニ」が私を遠隔操作しているような錯覚をいつも抱いてしまうのだ―
インドネシアはこれから乾季に入り、旅するのに最適なシーズンを迎える。
ことプランバナン公園内にある野外ステージでは、満月の夜 寺院をバックにインド叙事詩「ラーマヤナ」が上演される。これも必験の一夜となろう。お問合せはピコまで。