ブータンは熱帯モンスーン地域にあり、季節というと6~8月が雨季、9~5月が乾季と区別されることが一般的です。しかしブータン人の多くが住んでいる所は高地であり、他の熱帯モンスーン地域と違い春夏秋冬もはっきりしています。
3月になると桃などの果実の花が里を彩り、山には石楠花の花が咲きます。6月頃になると気温が上がり始め、畑に作物が育ち、市場にもブータン産の野菜がたくさん並び、山には色とりどりの高山植物が咲き乱れます。9月になるとコスモスの花が里を彩り、棚田は黄金色に染まり、木々もほのかに紅葉します。11月になると冷え込む日が増え、首都ティンプーでも年に数回は雪が降ります。
秋の光景でもう一つ目を引くのは家々の屋根が真っ赤なになることです。
ブータン人はよくトウガラシを食べます。家庭料理でトウガラシは欠かすことができない食材で、我が家のおかずも朝から晩まで卵焼き以外には全てトウガラシが入っていて、8人家族で週に2キロぐらいは買います。代表的な料理はエマダチと言い、トウガラシ(エマ)を少量のタマネギとトマトとチーズ(ダチ)で煮込む料理です。このエマダチにジャガイモを加えたケワダチ、キノコを加えたシャモダチなどを毎食のように食べます。トウガラシはスパイスでなく野菜であり、一年中大量に必要なのです。
トウガラシはインドから輸入された細いもの、丸い小さいものなども食べます。これらのトウガラシは一年中市場で手に入ります。しかしブータン人が一番好きなのはブータン産の大きなトウガラシ(約長さ12cm、幅3cm)です。辛さは少し控えめで味わいがあるのが特徴です。夏の時期にしかできないので、冬は乾燥させたものを食べます。その量が半端ではないのです。秋になり天候が安定してくると屋根いっぱいに真っ赤なトウガラシが干されます。そして秋から冬になると食卓のお皿にも赤いトウガラシが多くなります。
しかしそんな秋の光景も首都ティンプーではあまり見られなくなってしまいました。
ティンプーは谷の狭い所にあるのですが、近年人口が増えてしまい、住宅は一戸建てから3~5階建てのアパートへと変わっています。各家の軒下やベランダにはトウガラシが干されてはいますが、屋根の上には干せなくなってきてしまったのです。日常的に見られる四季の光景が減るのは寂しいものですね。