大型トラックやバスが80km近い高速で行き交う幹線道路。両脇には田畑かガソリンスタンド、長距離を走り疲れた運転手を相手にしていると思われる休憩所が点在するだけのシンプルな道。むろん交差点などほとんどなく、郊外にむかって一直線に伸びた道に横道から侵入してくる車両はまずない。
網の目状に広がるベトナム・メコンデルタの川でジャングルクルーズを楽しむため、私たち一行はホーチミン市から郊外のミトーへむかっていた。車窓からみえるのは先述した色気のない風景ばかり・・・・と、片道2時間あまりのドライブに飽きはじめたちょうどそのとき、沿道のガソリンスタンドになにやら大きな影が3つ4つたむろしているのが目にはいった。
『?・・・!!』
スタンドの水場に涼を求めて集まっているのは、野良犬か?と思いきや、牛ではないか。どこをみても引率者がみあたらない。しかもどの個体にも綱がついておらず、自由きままに水を飲んでいる。
そのうちスタンドの店員が気付き、両手を振りまわして牛を追いに走ってきた。
車内にその声は聞こえるよしもないが、どうみても「こらーっ!オラとこの水を飲むでねー!!あっちいけ」と言っているようにみえる。
牛なのに。簡単に追える犬じゃないのに・・・。
その巨体を単なる野良犬程度の存在にしか扱わない店員に負けずおとらず、追われた牛たちは『おっかねー!逃げろにげろ・・・』とばかりに飛び上がって身軽に逃げていった。
高速で迫ってくる車両をうまくよけ器用に走り去る牛。
『おかしなものをみてしまったなぁ・・・ここ幹線道路だよなぁ・・・ふぅ』
車内に目をもどし、となりに座っているガイドさんに「ホーチミンでは牛が自由に道を歩いているの?」と訊いてみた。彼は涼しい顔で「え?そうですけど?」と答える。
「野良なの?」念のため訊いてみる。「あれは野良ですね」彼も今のシーンをみていた模様。
「こんな高速道路みたいなところで、轢かれないなかなぁ?」心配すると、
「自己責任ですから」彼はさわやかな笑みをみせた。
全国民の半分が20歳未満だという若い力溢れるベトナム。経済も今後の成長を世界中から期待され前途洋々だ。その期待を知ってか知らずかこの国は国民も牛も妙にたくましい。
おりしも今年は丑年。フットワーク(逃げ足?)軽い野良牛を見習って、私も牛車ばりの速度かもしれないが、不景気といわれるこの一年をたくましく過ごしていきたいと思う。
本年もスタッフ一同心をこめてご旅行のお手伝いをいたします。
「牛並みにタフなピコ」をどうぞご愛顧くださいますようお願い申し上げます。