ブータンは九州と同じぐらいの面積の小さな国ですが、7,000m以上の標高差があり植生も豊かで自然環境に恵まれています。チベット文化圏の中では昔から「薬草の国」とも呼ばれていました。自然の中から採取できる数々の薬草や植物を配合し、漢方薬を作り昔から人々は利用してきました。
今でもブータンではすべての国民に対して近代(西洋)医療と伝統医療の両方において無料の医療サービスを提供していて、伝統医療は近代医療の代替という位置付けではなく近代医療と対等にお互いを補完しあっています。
若い人でも山や森に入るとこれは何に効くなどと薬草について知っている人も多く、まだ身近に薬草はあるように感じます。先日私の喉が痛くて声が出なくなっている時もブータンの言葉で“プティシン”と呼ばれる、枝のような根のようなものを熱いお湯に入れてくれ、それを飲んだら翌朝声が出ました。後でわかったのですがゴマノハグサ科の胡黄連の根茎を乾燥したものでした。
そして、漢方薬の中でも万能薬として珍重されている“冬虫夏草”も山岳地帯では採取できます。昔から不老長寿の薬草として知られており、最近では癌に対する効果が期待され、アンチエイジングとしても利用されています。冬虫夏草は、昆虫に寄生する菌(キノコ)です。蛾などの昆虫の卵が孵化し地中に潜った時に、この冬虫夏草の菌がつくと、そこから寄生をして昆虫とともに育ち、長い冬を越えます。夏になると発芽をして地上に出てきますが、この時の姿は虫のままですが、実際には既に寄生が完了した植物です。字そのものが現すように、冬は虫となって地中に帰り、夏は草のようになり地上に出てくるという不思議な植物です。冬虫夏草は300種類以上あるのですが、漢方薬として効果があるものは一部の昆虫に寄生するものだけで、コウモリガの幼虫に寄生する冬虫夏草は最も効果があると言われています。3,000m以上の高地でしか生育できず、採取できるのも夏の2か月ぐらいの間だけなのでヒマラヤ山脈の宝物として珍重されています。