ブータンでも温泉は昔から怪我や病気を癒す湯治場として親しまれています。とは言っても、自然に湧き出た温泉だけで10カ所ぐらいです。そして殆どの温泉は車道も通っていない秘境にあり、歩いて半日から数日かかる場所にあります。
温泉の中でもプナカの北部にあるガサ温泉は人気があります。ガサ県は10年ぐらい前までは県庁まで車道が通じていなく、車道から歩いて8時間ぐらい掛かりました。それでも学校の長期休暇、農閑期となる冬場は、近隣の農民や高地の遊牧民を中心に全国の人で賑わっていました。簡易の宿泊施設も少しはあるのですが、食堂はないし寝具や調理道具なども設置されていません。1週間ぐらい、1ヶ月以上滞在する人もいるので、多くの人はテント、プロパンガスや調理道具、食料を全て持って、近隣の空地でテント泊をします。重い荷物は馬で運びます。
今は車道ができて、ガサ温泉までも車で行くことができるようになりました。便利になった分、冬場は昔以上に混んでいるようです。私も今年の2月後半に13年ぶりに1泊2日で行ってみました。学校の長期休暇は終わっていたのですが、国王の誕生日の3連休とロサルというブータンのお正月が重なり5連休だったので混んでいました。
低温から高温まで5つほどの湯船があります。日本の感覚でいうと、それぞれが10人ぐらい入れる湯船です。男女混浴で基本的にはシャツや半ズボンを履いて湯に浸かります。人が多くて芋の子を洗うような感じでした。それも日本だと知り合い同士が固まって入り、その間には他の人はあまり入らないと思うのですが、ブータンの場合は人が立てるぐらいの空間があれば、ここが空いているよと教えてくれます。私の前にほんの少し空間があり、若い女性が入ってきて、足の先の上に座られてびっくりしましたが、彼女は“あら?”という感じです。そこまで人と人との距離が近いと少し抵抗もありますし、温泉でゆっくり癒やされるという感じではありませんでした。
ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を置くことを勧められている今、あんな風にわいわいと他人と触れあって、温泉を楽しんだことを懐かしく思われます。