バリ島から舟を90分ほど漕いだ沖合いに、レンボンガンという名の島がある。観光資源に恵まれているわけでもなく、島民がつつましやかに日々の生活を紡いでいる色気のない島だ。通のサーファーの間ではいい波が来ることで知られるが、故に島を訪れる“外国人”はもっぱらサーフィンや他のマリンスポーツを目的として来る。
こんな マリンスポーツ以外面白みもない島に魅せられ、アトリエを建ててしまった人がいる。「バリゾー」。ふざけているような核心をついているような不思議な名前の持ち主であるその人は、島の子供たちにボランティアで絵を教えたりしている。ひがな一日、釣りをしたり釣ったさかなを調理したり、アトリエをにわかリビングに仕立て上げ日本からの客人をもてなしたり、そしてまた日常に戻って絵を描いたりしている。
不思議なのは、朴訥としたその外見とはおよそ結びつかない繊細なタッチの絵を描くこと。彼の手にかかったら、素っ気無いはずのレンボンガン島が魅力ある素敵な島に変身してしまうのだ。生き生きした植生の表現力については述べるまでもなく、島の海岸に早朝立ち、仰ぎ見た暁の刻々移り行く空の音色やそれを映す海の描写は絶景(いや、絶写か?)である。
またあるときは、日常の風景の上空高くを穏やかに風が渡る。この絵を眺めているだけでひたいを前髪がなでて揺れるような感覚に陥る。―そしていつしかこの島の海岸で同じ景色を見てみたいと思わせる。
とはいったものの、「バリゾー」画は写実ではない。実をいうと誰にでも書けそうないたずら書きの延長と言い切っても過言でないくらい、カジュアルな作風なのだ。
ところがモチーフの選び方や色の付け方に“単なるスケッチ”“作品”の分かれ目となるスパイスがつまっている。そのスパイスの調合ひとつで、絶妙な「バリゾースタイル」が仕上がっているのだから、その妙、なんども味見してみたくなる。
またこの人、バリ好き人間の心をグッと掴むのに長けていて憎らしい。私たちが滞在中に目にするちょっとしたもの―
短期滞在の観光客がけっして買わないローカルな果物、“星”という名のビールのビン、どろりとした粉がくせになるバリのコーヒー、においの強い蚊取り線香、芯がぽきぽき折れて火が付けられないマッチの箱、海遊びの合間にのどを潤した椰子ジュースのパック、なんども溶けては固まるを繰り返したアイスバー、バリではまだまだ現役の公衆電話小屋の看板などなど―
を作品に取り込んでしまうものだから、いちど彼の作品を目にしたが最後、どの作品にも愛着が湧き、自分の手許に置きたくなってしまうのだ。
こんな魅力たっぷりの(魅力、私の文章から伝わったかしら・・・)「バリゾー」あれこれを、ポストカードに凝縮し、この秋よりバリ島・プラザバリ本店にてみなさまにもお届けします。バリに訪れた際は、ぜひこの不思議な“癒し系画家”バリゾーの世界を、みなさまもご散策ください。
※この原稿を書いているときに、再度のバリ島テロのニュースを知りました。犠牲者の方々へ心よりお悔やみ申し上げるとともに、一日もはやくテロ対策を確立し島に笑顔が戻ることを願ってやみません。
By Ito