絶滅危惧種である”オグロヅル”というツルが毎年10月下旬になると、中国からヒマラヤ山脈を越えて、時には酸欠になりながら、ブータンに飛来してきます。そして毎年3月初め頃までブータンで越冬し、またヒマラヤ山脈を越え中国へ戻ります。
オグロヅルは英語では”Black-necked Cranes”です。大きさはタンチョウヅルより少し小型で、日本語名と英語名の通り、尾羽と首が黒色をしています。
ブータンには4カ所ほど飛来地がありますが、大半はフォブジカというところを餌場にします。フォブジカは標高3,300mぐらいのところにあり、氷河に侵食されてできた谷がU字に広がっています。ここ近年はオグロヅルの飛来数が増えており、5年前には200羽ほどでしたが、昨年は320羽を観測しました。
フォブジカ谷にはガンテ・ゴンパというチベット仏教のニンマ派の寺院でブータン内最大の寺院があります。オグロヅルはフォブジカ谷に降りる時、フォブジカ谷から飛び立つ時にガンテ・ゴンパの上を右回りに円を描いて飛ぶと言われています。ブータンでは仏教的なものは必ず右回りに廻るのが教えです。フォブジカ谷の人々はオグロヅルを縁起の良いしるしとして昔から大事にしてきていました。
現在は王立自然保護委員会により、湿地を守る活動や人々がツルに近づかないように遊歩道を整備するなど、ツルを保護するためにさまざまな活動が行われています。
しかし、このオグロヅルが住む環境が守られているのは、何よりもフォブジカ谷の人々のオグロヅルへの思いやりだと感じます。日本のテレビ番組でもこのフォブジカ谷の人々とオグロヅルのことは取り上げられたことがあるので、ご存じの方もいると思いますが、フォブジカ谷には未だに電柱も電線もありません。電気は民家もホテルもソーラーパネルを屋根に設置し、一日に限られた時間だけの電気供給で毎日の生活を送っています。これはフォブジカ谷の人々のオグロヅルが毎年越冬できる自然環境を守りたいという、オグロヅルとの共存を願っての結論です。ブータン王国の政府はその意志に基づき、ソーラーパネルの設置を援助し、フォブジカ谷の自然環境を守る活動を行っています。
フォブジカの谷のホテルでろうそくの火を灯して、薪ストーブのやわらかい暖の中、熱いミルクティーを飲んで、そんなフォブジカ谷の人々の生活を感じてみてはいかがでしょうか?